古物商の「行商」とは?許可申請時は「する」「しない」どちらが適切?

古物商の「行商」とは?許可申請時は「する」「しない」どちらが適切?

古物商の許可申請時には、「行商する」と「行商しない」のどちらかを選択しなければなりません。
営業所以外で取引をする予定もないし、「行商しない」を選択しようと考えている人も多いのではないでしょうか。しかし、安易に選択しては後悔してしまうかもしれません。
この記事では、行商の定義や詳しい内容について紹介し、許可申請時にどちらを選ぶべきかを解説していきます。これから古物商の許可を取得しようと考えている人は、ぜひチェックしてみてください。

古物商の「行商」とは?

「行商する」「行商しない」のどちらが最適なのか判断するためには、まず行商に該当する取引がどのようなものなのか把握しておく必要があります。古物営業法における行商の定義から見ていきましょう。

行商とは何か

行商とは、古物商が営業所以外の場所で取引することを指します。古物商は、営業場所の制限があり、古物の取引ができる場所を限定されているのです。
原則、許可証取得時に届出した営業所・店舗の所在地でのみ営業が許可されており、それ以外では営業できないことになっています。
以下は、古物営業法の「行商」と「営業の制限」に関する記述です。

古物商は、その営業所又は取引の相手方の住所若しくは居所以外の場所において、買い受け、若しくは交換するため、又は売却若しくは交換の委託を受けるため、古物商以外の者から古物を受け取ってはならない。
古物営業法第14条第1項より引用)

行商しない古物商は営業所でのみの取引できますが、行商する古物商は上記の制限内であれば自由に古物の取引が可能です。制限の詳しい内容については後述します。

行商に該当するケース

以下のような取引が行商に該当します。

  • ・定期開催の市場などで古物を販売する
  • ・路上・空き地・公園などで古物を販売する
  • ・古物市場で仕入れをする
  • ・取引相手の住居に赴いて取引する(出張買取・訪問販売など)

デパートの催事場や蚤の市など、人が多く集まる場所へ仮設店舗を設置し古物を販売する行為は、すべて行商に該当します。訪問販売や出張買取などの営業形態も行商です。
また、古物市場での競りに参加するためには「行商する」で古物商の許可を取得しておかなければなりません。買取だけでなく古物の仕入れも行商に該当するため注意しましょう。

行商に該当しないケース

以下の取引のみをおこなう営業形態なら、行商の許可は必須ではありません。

  • ・営業所(店舗)でのみ取引する
  • ・EC上のみの取引に限定する

ただし、今後古物市場での仕入れや仮設店舗の出店、出張買取などを視野に入れている場合は許可が必要になるでしょう。古物商許可証を取得する際は、「行商あり」で申請することをおすすめします。

「行商しない」を選択した場合のデメリット

古物商許可証の申請時に「行商する」に丸を付けなかった場合は、どのようなデメリットがあるのでしょうか。安易に選択すると手間がかかる可能性があるため、よく検討して判断してください。

仕入れの限界が来た時立ち行かなくなる

「行商しない」を選択した場合は、店舗への持ち込みだけが仕入れの間口になります。
大手業者であれば問題ないかもしれませんが、個人経営の古物商は日によって買取希望者にばらつきがあるものです。在庫がどんどん少なくなっていけば、経営が立ち行かなくなる可能性もあるでしょう。
一方、買取が少ないのにも関わらず在庫が減らない場合は、残念ながら売れていないということになります。売れ残った商品を入れ替える必要があるのですが、交換する在庫を仕入れられないと八方塞がりになってしまうでしょう。

古物市場での取引ができない

「行商する」を選択していないと、古物市場の競りに参加することができません。
仕入れルートが制限されているので、在庫が少なくなった・偏りが出た際に、商品の調節ができないというデメリットがあります。
古物市場に参加できなければ、卸売業者や引っ越し業者の倉庫へ出向いて仕入れすることもできないのです。掘り出し物や欲しい商品を探している時に、古物市場の仕入れルートが利用できないのは痛手になるでしょう。
さらに古物市場では、自分が売り手になることもできます。売れなかった在庫を必要としている競合業者へ売りさばくことにより、在庫ロスを最小限に抑えられるのです。しかし、「行商しない」を選択している場合は、在庫を店舗で売り切るあるいは廃棄するしかなくなってしまうでしょう。

古物市場については以下記事で詳しく解説しています。

変更申請時にコストがかかる

古物商許可証は、一度申請した内容をのちに変更することもできます。
ただし、変更申請をおこなって古物許可証を書き換える必要があり、申請時の手数料として1,500円が発生してしまうため、時間とコストがかかるのがデメリットです。

行商する場合の義務やデメリットはない

「行商する」を選択した場合のデメリットは特にありません。申請時に追加費用の支払い義務なども発生しないため、迷うなら「行商する」を選択しておくことをおすすめします。

「行商しない」を「行商する」に変更する方法

変更届は、許可証の交付を受けた警察署に提出してください。
ただし、許可取得後に営業所の移転が発生した場合は、移転後の営業所を管轄する警察署に提出します。変更があった日から14日以内に申請する必要があるため、遅延しないよう注意しましょう。
変更申請は平日のみ対応しており、防犯課の窓口で17時15分まで受付可能です。
ただし、許可証の書き換えや、会計窓口で手数料の納入手続きも必要になるので、時間には余裕を持っておきましょう。行商以外の内容に変更がなければ、添付書類は不要です。「変更届出書」と「書換申請書」を記入して提出します。
古物商許可を取得する方法については、こちらの記事を参考にしてください。

行商をおこなう際の注意点

「行商する」を選択したからといって、制限なく自由に取引していいわけではありません。ルールを守って行商しないと違反になってしまうため注意しましょう。

取引相手による場所の制限

古物の販売に関しては、取引相手や場所の制限はありませんが、買取の場合は注意が必要です。取引相手が同業者の古物商であるか、あるいは一般客かによって行商できる取引内容は異なります。

取引相手 買取可能な場所
古物商 場所の制限なし
一般客(個人または法人) 営業所(自分の店舗)
取引相手の住所・居所
古物市場
仮設店舗(事前申請必須)

古物商が取引相手なら場所に制限はありません。たとえばコンビニの駐車場などで待ち合わせて取引することも可能です。
ただし、古物商許可証を持っていない一般の人が相手の場合は、上記でのみ買取業務が認められています。

法改正で仮設店舗でも買取が可能に

2018年に古物営業法が改正され、仮設店舗での買取も可能になりました。「3日前までに日時・場所の届出をする」ことを条件に、一般客からの買い受けも例外的に許可されることになったのです。
ただし、条件どおりに届け出をせずに行商をおこなった場合は、ペナルティを受けてしまうため注意してください。
1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるため、しっかりと事前に申請するよう心掛けましょう。

許可証あるいは行商従業者証の携帯義務

行商には必ず「古物商許可証」を携帯しなければなりません。また、行商の際に取引相手から提示を求められた場合はこれに応じる必要があります。古物市場の受付時や入場時に提示するケースも多いため、営業所から出て取引する際は常に携帯する必要があると覚えておくといいでしょう。

また、古物商許可を取得した本人でなく、従業員が代行または同行する場合は「行商従業者証」の提示が必要です。万が一違反した場合は10万円以下の罰金が科せられてしまいます。

迷ったら「する」で許可申請を

古物商許可証に関する行商の有無をまとめると以下のようになります。

行商しない古物商 売買ができるのは営業所のみ
行商する古物商 売買ができるのは営業所と取引相手の住所
行商する古物商で仮設店舗営業の届け出を都度提出している 仮設店舗でも買取可能

許可取得後でも行商の有無を変更することはできますが、許可証の書き換えや追加費用が必要です。
「行商する」を選択しても特にデメリットはありませんので、これから許可証を取得する人は「行商する」で申請することをおすすめします。